1990年代前半、パチンコに「CR機」とプリペイドカードが導入されました。現金を使わずカードで玉を借りる、当時としては先進的な仕組みです。
ところが、そのカードのセキュリティが甘かった。結果、カード会社はたった1年で630億円もの被害を出します。パチンコ史に空いた最大級の穴、変造プリペイドカード事件を検証します。
仕組みと、そこに空いた穴
CR機のプリペイドカードは、こういう仕組みでした。
- 客はカードを買い、その残高で玉を借りる
- CR機の売上情報はプリペイドカード会社に集約される
- そこからホールへ売上金が振り込まれる
一見スマートです。でも、カードの残高情報が変造(改ざん)できてしまうという致命的な穴がありました。使用済みのカードを「まだ残高がある」状態に書き換えれば、タダで玉が借りられてしまう。
さらに悪質なのが、一部の店が閉店後に自店の台で変造カードを使い、架空の売上を計上して振込金を騙し取るという不正まで発生したことです。
被害は1年で630億円
被害の規模は、桁外れでした。
1996年3月期だけで、被害は630億円に達したとされます。日本総研の研究者による論文は、その内訳まで特定しています。三菱商事系のカード会社が約550億円、住友商事系が約80億円。前者はこの期に約291億円もの赤字を計上したと報告されています。
商社系の大企業が、カードのセキュリティの穴ひとつで数百億円を失った。これはパチンコ業界だけの話ではなく、日本のキャッシュレス黎明期の大事件でもありました。
※金額・内訳は学術論文や報道をもとにした概要です。正確な数値は一次資料でご確認ください。
実は、雑誌が事前に警告していた
面白いのは、この事件が予言されていたことです。
パチンコ攻略誌が、事件が本格化する前の時点で、変造カードの存在やプリペイドカードのセキュリティの甘さ・偽造可能性を誌面で取り上げていた、とされます。業界の内側からは、穴の存在が早くから見えていたわけです。
にもかかわらず、対策が追いつく前に被害は拡大しました。警告はあった。でも動かなかった——このパターンは、裏モノ・不正基板事件史で見た「摘発されてから対策が固まる」流れとよく似ています。
穴は、塞がれた
事件を受け、対策が進みます。変造しやすい高額のカード券が段階的に廃止され、カードは地域別化・ID管理化されて偽造しにくくなりました。変造カードの使用そのものも、電子計算機使用詐欺罪などで摘発されるようになります。
パチンコの歴史は、不正が起きるたびに仕組みが堅くなってきた歴史でもあります。封印基板しかり、地域別の特殊景品しかり、そしてこのプリペイドカードしかり。穴が見つかり、大金が吸い込まれ、そして塞がれる。その繰り返しの上に、今のシステムが立っています。
業界の歴史をもっと辿るなら4号機からスマスロまでの規則改正史やパチンコ市場規模の推移へ。噂と伝説の総まとめはパチンコ・スロット都市伝説10選からどうぞ。
